「21世紀は環境の世紀」と言われています。
環境問題に対する市民の関心も高まり、その中で、環境指標としての野生鳥類(以下「野鳥」)、の生息状況に注目する人の数もかつてない増加を見ています。

しかし、人々の関心と反比例する形で、環境は悪化の一途をたどっています。
地球規模での環境悪化にはじまり、身の回りの環境撹乱も依然として止まらず、野鳥の生息環境は、確実に危機的な状況へと追い込まれています。
こうした状況下、私たちは20世紀型の野鳥保護思想では、これからの野鳥保護やその生息環境問題には対処できないと考えます。

我国における、野鳥保護の歴史をふりかえって見ると、以下のステージがありました。

@ 個体を保護する活動。
野鳥飼育を制限・禁止し、空気銃、霞網などの猟具を禁止することにより、野鳥の個体の保護を目指す活動がこれにあたります。
現在も、飼鳥問題、密猟問題など、取組まねばならない活動が多数存在します。
A 個体群を保護する活動。
千葉県でいえば、オオセッカ、コジュリンなどを保護する活動がこれにあたり、今後とも取組まねばならぬ課題です。

B 絶滅に瀕した特定の種の保存をはかる活動。
トキなどの事例がこれに相当し、上記Aとも関わります。

C 生息環境全体を保全する活動。
財団法人日本野鳥の会が、北海道ウトナイ湖にバードサンクチュアリを作った活動などがこれに相当し、千葉県内では谷津干潟が国設鳥獣保護区になり、ラムサール条約の登録湿地となったのは、そうした活動の成果と考えます。
さらに、稀少種の多数生息する印旛沼北部調整池の環境保全活動など、今後も取組むべき問題が山積しています。

これらの活動は、いずれも一定の成果を上げ、国設鳥獣保護区、ラムサール条約登録湿地など、生息環境の保全を法的に担保する体制も整ってきました。
しかし、上記@〜Cの活動だけで、野鳥の生息環境が守れるわけではありません。
千葉県内でいえば、前述のように谷津干潟は、国設鳥獣保護区になり、ラムサール条約によっても環境保全は担保されましたが、その後の維持管理上の問題からアオサが大量発生し、干潟環境は悪化し続けています。
また、三番瀬は埋立計画が白紙撤回されましたが、今までの大規模湾岸開発による環境負荷により、毎年青潮の発生する環境と化しています。
野鳥の生息環境を守るためには、こうした困難な問題とも取組まねばならないと考えます。
そこで、上記@〜Cまでのステージに加えて、人為的原因によって、すでに悪化してしまった生息環境を良好な状態に戻すために、以下DEのステージの保護活動を展開する必要があります。

D 野鳥の生息環境を修復する活動。
たとえば、アオサ発生被害のはなはだしい谷津干潟の環境修復を図り、アオサの発生しにくい環境を作り出すことなどが、このステージの活動であると考えます。
E 野鳥の生息環境を再生させる活動。
三番瀬では、毎年青潮が多発し、底生生物の多量斃死を招き、ひいては野鳥の生息条件をも悪化させています。三番瀬の海の活力を取り戻させる活動などが、このステージの活動であると考えます。

人類が自然環境と関わってきた歴史を振り返れば、狩猟・採集、農耕、牧畜という、自然の中で生かされてきた段階から、工業化の段階を経て、大規模開発が自然環境を壊滅的に破壊してしまいました。
私たちは、21世紀の環境保護活動とは、人為的に撹乱された環境を、生態学的知見を駆使し、注意深く修復・再生すべきステージに入ったと認識しています。
その認識に立ち、野鳥の生息環境の保全・修復・再生における政策を提言していきます。
当然のことながら、開発行為反対にとどまらず、カウンタープランを提示し、さらに独自の都市環境マスタープランを提示することまでを視野に含めた活動を展開したいと考えます。
こうした活動を推進するために、また、千葉県内の野鳥生息環境を保全・修復・再生するために、政策提言、調査研究、普及啓発、環境教育、国際協力、施設の整備・運用等に関する事業を行い、もって千葉県全体の自然環境の質的向上に寄与するために、特定非営利活動法人野鳥千葉を設立いたしました。


NPO法人野鳥千葉を代表して
理事長  志村英雄